ふと気づけば、帽子作りがマイブームである。去年の暮れぐらいからいくつか作った。
なにか新しいオリジナルなのを作り出して、とかそんなんではなく、型紙付きの本を買ってきて、それをもとによいしょよいしょと作っている。布切れも、穴が開いたり小さくなったりして着なくなった服をつぶしたり、これまでのお細工物の残り切れを使っている。あまり金をかけない、これが信条である、いつものごとく。
まあ、これまでもなんかあれば縫い物はしているし、今回も帽子ばかりでなく、勢いに乗じて手提げかばんや小物入れも作っているけど、帽子はこれまで挑戦したことがなくて、で、やってみたら案外ちょろいもんだとわかって、言葉を覚えた子どもがしゃべりまくりだすように、必要以上に帽子をいくつも作っているわけである。
そういえば、帽子を作ろうと思い立った頃、百均の店に行ったらズラッと帽子が並んでいて、それを見たときはかなり萎えたけど、あれはなに? 帽子の材料を手芸屋で揃えれば百円は越えようものを、労働賃金とか輸送費とかもあるのに、まったくどうなっているのかね。
さて、帽子を作ると聞けば、なんかとても特別な技術がいると思うだろうけど、いざ作ってみると、型紙さえあれば、縫いの作業自体に特段難しいことはない。簡単なかばんや袋物なら型紙もいらないけれど、さすがに帽子では型紙がないと相当にややこしいはず。最初は型紙通り作って、それからオリジナルなものを作ってみたければ作ればよろしい。そのへんは楽器の習得と同じである。まずはコピー。
使う布切れは、帽子一つ分で長袖のシャツの両袖分ぐらい。同じだけの裏地分の布切れもいるけど、まあいずれにせよ大した量ではない。なんとなれば裏地を表地と同じ布にしてしまえば、長袖のシャツ一枚分弱で、ほほほいのほいである。裏地にも気を使って作ればリバーシブル仕様にもなる。小学校の体育の赤白帽みたいなもんである。
同居人がつかみ取りで買ってきた着物を布地として供出してくれた。紫地の縦縞模様でとてもいい。性が抜けているんで、着物としては用をなさないけど、芯地を張れば帽子には十分な強度と判断。これで、同居人用に深めの帽子と、ぼくの鳥打帽を作った。
柄が柄なだけに、できあがってみると十分に強烈な一品。であるがゆえに、二人が揃ってこの帽子をかぶると、最近見かけんくなったペアルックのアホアホカップルよりも、もっと強烈に怪しいアベックに見えてしまうであろう。
帽子をかぶって二人並んで鏡を見ながら、
「これはきついなあ。ええか、おれがこれをかぶる時は、おまえはそれをかぶったらいかん!」
「わたしもこんなん嫌じゃい!」
てな具合である。
待ち合わせをした時に、なんかの拍子でお互い知らずにこれをかぶってきたとしたら、ハタから見れば、仲のいいアホカップルがなにか言い合いをしていると見られよう。
「な、な、なんと! それかぶってきたんかいな」
「な、な、なんじゃ! やいの、やいの!」
「やいの、やいの!」
「やいの、やいの! なんでもええで、はよ脱げ。キャラかぶって見られるわ」
キャラかぶる?
ということで、わたくし、これから自作帽子のブランドを「伽羅」とすることにしました。タグもいずれ作りましょう。かぶりものといえば、伽羅。よろしく!
と、そんなこんなはさておき、この期に及んで、いまだにぼくはミシンを買ってない。どんなのを買ったらいいかわからないの。安いのを買えばパワー不足、機能不足に泣き、安物買いのなんとやらを嘆きそうだし、高いのを買えば買ったで、でかいぞ、重いぞ、狭い家には邪魔だぞ、と愚痴を吐きつつ、「熱しやすく冷めやすい症」患者所有の持ち腐れた宝になりそうだし、あーん、どれ買えばいいんだあ、と優柔不断爆発。
というわけで、今もってぼくのお裁縫は手縫いでぬいぬいである。ミシンがないからといって、帽子作りを恐れることなし。キャップ帽のツバ部分を硬い芯ごと縫うのが手縫いでは相当きつかろう、というぐらいのもの。マジ縫えんのかどうかまだやってないからわからないけど、ツバは厚地の芯地にすれば、既製品のようにガッチリとはいかずとも、使用に十分耐えうることを他の帽子で確認済みだから、よしである。硬いツバのキャップだけがキャップじゃないやい。
確かに、ミシンがあれば、「簡単なものなら30分でできる!」という帽子の本のうたい文句もウソじゃなかろう。でもそれって相当手だれのミシン使いだと思う。そこまでミシンに慣れるまでにぼくは帽子作りに飽きている、と断言しましょう。ぼくはこれからものんびり並み縫いでなみなみ行くのだ。
縫い目をなるべく隠すように縫うのが手縫いの基本であるからして、出来上がってしまえばわからないものの、縫い目はまだまだ粗く、ベテランの人に遠く及ばない。ミシンでは縫い目も出し放題だけど、それをうまいこと隠すにはどういう手順で縫っていけばいいか、なんてことを考えながら作っていると、工夫ぶっていて偉そうじゃないか、と軽く悦に入れたりする。
まあ、ものづくりにおいてはなんでも同じだけど、縫い物でも「縫う」というメインの作業以上に気を使うべきは、そこに至るまでのしっかりした型紙作りや、布の切り出し、待ち針や仕付けなどなどの下準備である。
仕付けは待ち針や仕付け糸の代わりに、クリップで仮止めすると便利。文房具箱にあったちびちびクリップを使って、しかるべきところにしかるべくはさんでみたら、待ち針や仕付け糸よりも微調整がしやすくて、とても具合がいい。なんせはさんでいくだけなんで、お裁縫初心者にもおすすめである。それ用のクリップが手芸屋さんに売っているけど、洗濯バサミでもいいし、一度手近な物を使ってやってみてみて。
あと、大事なのは仕上げ。仕上げと言っても、アイロンを使ってシワを取ったり折り目をつけたりするだけなんだけど、ぼくのようなせっかち人間は、最後の玉止めをすると、「やったあー、できたあー」と舞い上がって、「ほれっ、ほれっ、できたっ、できたっ」と同居人に自慢してしまうわけであるが、でも、冷静になってよく見ると、なんか今ひとつしっくり来ないところがあったりするもんである。翌日に改めて見たときなんかに、そういうところがとても気になりだすもんなんである。そこで、アイロンを使ってシワを取り、折り目をちゃんとすると、あれまっ、ぐっとよくなるんですねえ。
簡単なこととはいえ、仕上げをなめてはいかん。「できたあーっ」と思った喜びをお茶でも飲みながら味わったら、早速仕上げにかかるべし。それから人に自慢しても遅くはない。
さて、女性客がほとんどの手芸屋さんにヒゲ面の中年が行くというのは、正直言って結構勇気がいる。ぼくのことなんか誰も気にしてなかろうに、自意識過剰、他の客の視線を勝手に自分に突き刺してしまうのである。それに、ロール状になっている1メーターいくらの布を買おうにも、これはこの布をレジに持っていくものなのか、店員に声をかけてしかるべき長さを申告するものなのか、買い方もよくわからんし、なんせ緊張ドキドキである。
この前も、他の客が布を買うところを見ようと、ギロ目で様子をうかがっていたんだけど、結局その日はそういう場面に出会えずじまい。でも、見本のために3センチ程度切ってもらっているお客さんがいた。その店では五種類までだそうだけど、そんなことできるのか。知らんかった。布の買い方も見本のことも、店のどこにも書いてあらへんし、うひゃあ、シロートのぼくなんか、ぼくなんか・・・。
この「店に行って緊張ドキドキ」は、以前、エフェクター作りに凝って電子パーツ屋に行き出した頃以来である。三十を過ぎたワケ知り風なおっさんが、実はよくも知らず、店員に「型番○○のトランジスターありますか」と聞くときのドキドキ感。他の客はみんな電気に通じていそうな中で、なかなかの緊張感である。
電子パーツは型番が数字とアルファベットで分類されていることが多いんだけど、「l」が「いち」なのか「エル」なのかわからないで店員に在庫を確認するのは相当な勇気がいるということ、賢明なる読者のみなさまにはきっとわかっていただけることだろうと思います。「FET」という部品を、あちゃらの業界では「フェット」と呼ぶのか「エフイーティー」と呼ぶのか、はたまたそのどちらでもいいのかもわからない状態で、カウンターの後ろにある部品棚から出してもらって買い求めるのはなかなかの緊張を強いられるものだということ、賢明なる読者のみなさまにはきっとわかっていただけることだろうと思います(今もなんて読むものなのか知らん)。
一度、作りたい機材の材料表に見たことのない部品があった。電子部品屋では総合店以外、ここはトランジスター、ここはコンデンサーと、店舗ごとに扱う部品の種類が違っていたりするんだけど、その部品はこの店にあるだろうと思って、
「これ、どういうものかぼくもよくわからないんですけど、ここに置いてありますか」
と、聞いてみたら、店員からいきなり、
「何アンペアの?」
と聞き返されたもんだから、
(えっ、種類あったの?)
とドギマギしていたら、
「だからあ、何アンペアぐらいの電流が流れるぐらいのところにそれ使うの?」
と言われ、
「???・・・。あの、あの・・・、勉強し直してからまた来ます」
と、屈辱を味わわされた三十六歳の秋。
今回のお裁縫ブームでは、まだそんな逃げ出したくなるようなことはないものの、手芸屋さんをウロウロしていると、やっぱり少しドキドキする。もうこんなことは電子パーツ屋で終わりにしたいと思った三十六歳の秋の誓いはいずこへ。とはいえ、手芸関係は電気関係よりもずっとわかりやすい。なんせやっていることが、うまくできるかどうかはともかく、説明をされればなるほどそういうことかと、目に見えることばかりである。
去年の秋ぐらいに書いたパイプの話。すぐ飽きるかと思ったけど、今でも家で吸っている。好みの煙草葉を探すのがちょっとした楽しみになっていたりする。色々とあるダンヒルのは大概おいしい。ちょっと高いけど。50グラム900円~1000円程度の標準価格のものなら、マックバレンのバージニアNo.1、ミクスチャーブレンド、ゴールデンブレンド、ボルクムリーフのジェニュイン、ガレリアのフォックス&ハウンドあたりが素直でおいしいと思います。
で、今夜もパイプを咥えながら、よいしょ、よいしょと、手縫いのぬいぬい作業である。