ご飯漬けというのをやっている。漬け床にぬかなんかを使うんではなくて、ご飯を使って作る漬け物。去年の十二月頃だったかにNHKの料理番組でやっていたんで、さっそく真似てやってみた。
やり方はとても簡単。残りご飯でもなんでもいいけど、まずご飯を用意します。それに重さ10対1の量の塩をまぜまぜします。100gのご飯なら10gの塩。水で手を濡らしてまぜまぜこねこね。塩がまんべんなくまざったらこれをタッパーなどの容器に入れ、捨て漬け用に野菜の皮や端切れを漬け、二、三日してそれを取り出します。捨て漬けといってもちゃんと食べられます。それから本漬け用にお好みの野菜を漬けます。漬け上がりは物によるけど、半日から二、三日、またはそれ以上になります。
基本的にこれだけです。
漬け床のご飯は見た目だけでいうと、最初のうちは普通の白ご飯と変わらない。塩をまぜまぜしているときなんかに食いしんぼのカツオが見かけたら一口くちに入れたくなるはず。ただし、10対1の塩の量というのは尋常じゃないしょっぱさなんで、とても食えたもんじゃないけど。
ご飯が、ぬちゃ~と野菜にへばりついて取りにくいけど、ボウルに張った水でちゃんと洗い流して、おいしくいただきましょう。漬けた野菜の味も、単に塩もみしたのとあまり変わりない。
「なんじゃ、こんなもんかい」と、ここで失望してはならぬ。
二、三週間もいろいろと漬けていると、野菜の水分が出て、漬け床がとろ~んとなってくる。ぱっと見白粥のような感じ。漬け物にへばりつく漬け床のご飯も取りやすくなって、水でちゃっちゃっとやるだけですむ。このころになると、漬け物独特の発酵したにおいがふわ~んと広がるようになる。ここで「しまった、腐らした!」と思ってはいけない。これはまぎれもないあの漬け物独特のにおい。こうなると俄然漬け物を漬けている感が深まってくる。タッパーのふたを開けるたびに、台所で一人盛り上がってしまう。
と、ここまでがほんとうの最初の仕込み段階ぐらいだと思えばよろしい。「漬け物はゆっくり作る料理」と思えば、半日コトコト煮込んだスープなんてあくびをしている間にできあがる手みじか料理だ。
気を遣うところがあるとすれば、暖かいところにおいておくと発酵が進みすぎるんで、冷蔵庫に入れておくとゆっくりした発酵で初心者にはよろしいんじゃないでしょうか、と料理番組のおばあちゃん先生は言っていました。ぼくは冬に始めたんで、台所が寒くて冷蔵庫に入れる必要もなかったけど、そろそろ入れないといけないかも。
あと、漬け床が減ってきたら、10対1の塩ご飯を足していく、と。このあたりで、もっとしょっぱいのが好きな人は塩を多めにするなど、自分好みの塩加減をしてみてください。
漬け床がちゃんと発酵してきた以降の味はまさに漬け物。新鮮な野菜よりしなびた野菜のほうが漬け物としてはうまい。特に大根。何日か洗濯竿に干しておいてから漬けると、ポリッポリッ、うおーっ、めっちゃ漬け物。漬け物としてありがちな野菜をいろいろと漬けてみましょう。ぼくは大根以外に、にんじん、きゅうりあたりをやっているけど、そのほかの野菜もこれから漬けていこうかと思っております。
テレビでは、漬けるのは半日ぐらいで充分と言っていた気がするけど、ぼくは二、三日漬けといたほうが好き。
味に深みを出そうと柿の皮やダシをとった昆布を入れたりしてみたけど、それがどう味に影響したかよくわからず。
なんせこういうものは「適当」が身上でありましょう。今や、漬け物タッパーを置いとくのに最適な「冷暗所」も、冷蔵庫という強力な助っ人がいるのである。よく聞く「ぬか漬けはぬか床を毎日まぜる」なんていうようなこともあまり気にすることはない。一週間ばかりほっといても、漬け上がった野菜が取り出したハナから古漬け化しているぐらいで、失敗というほどのこともない。
そうそう、ねぎ好きのぼくは、「ねぎの漬け物なぞ見たことない。漬ける!」と意気込んで漬けてみたけど、どえらいことになりました。がらぐでぐえん。
ご飯漬けをやってみて思ったのは、昔ながらの食べ物を作るのは思ったほどに大変なことでないということ。口伝えで伝わってきたようなことに、こと細かな今風のマニュアルは似合わない。たとえばご飯と塩をまぜるとき、炊き立てのご飯を用意したとして、「ひゃあ、これじゃ熱くてまぜれん」と思ったら、冷ませ、冷ませ。そのぐらいのことは言われんくても頭を使うべし。そういうことの積み重ねが「ウチの味」につながる。
これまでご飯漬けというものがなかったのは、「せっかく食べられるご飯を漬け床にするなんて! まあ奥さん、もったいない!」ということだったんだろう。けど、ぬかよりもずっと手に入れやすいご飯、しかもタッパーでやれば人数の少ない家族用にもちょうどいい量と、このご飯漬け、とても現代的な漬け物である。ご飯漬けを発明したこのおばあちゃん先生は、伝統を現代につなげる本物の伝統を守る人である。表彰。
こうして手作りの漬け物を食べていると、その素朴な味に比して、市販の漬け物がいかに調味料を使っているのかとしみじみ実感する。こういう話になると、「やっぱり手作りこそが本物の味で、一番」などと素朴な味わい信仰の告白をうけることになりがちだけど、ぼくの場合、市販品はとてもパンチがあってうまいものなんだなあと、あらためて感心するのである。まさに家庭の味と外食の味との違い。すごいぜ、化学調味料。やるぜ、味の素。
たしかに、今では素朴な味の漬け物は、なかなか味わうことができないから希少価値は高い。自分で漬けた漬け物もそれはそれでもちろんうまいんだけど、ぼかぁあのまっ黄っきいの沢庵も大好きさ。商品として考えるなら、これはもう間違いなく市販の漬け物のほうが圧勝のパンチ力だ。それでも素朴な味を味わいたければ、「伝統」を守る商品を高い金を出して買うか、自分でお安く作るかである。
たとえ作ってみて失敗したところで、ご飯約3膳分と野菜がごみになる程度のこと。ガタガタ騒ぐほどのことでもない。
ところがちゃんと養生していけば、一生物の漬け床である。塩の力、発酵の不思議さに感心、感心。そして、自分の手や台所をただよう雑菌によって、これはもう誰にも真似のできない正真正銘の「ウチの味」になる。これはブログでちょっとだけガタガタ言いたくなるほどのことである。
みなさんも気がむいたら、一度やってみられるとよろしいのじゃないでしょうか。