最近またパイプに凝っている。
最初、パイプを始めたのは学生の時。部屋で横になって、くわえたばこでテレビを観ていると、いちいち灰を落とすのがめんどくさい。なんか灰の出ないたばこはないもんやろか。そうそう、パイプは灰を落とす必要ないがね、と気づいたわけである。ぼくが新しいことを始める動機は、いつも大体こんな感じである。
早速コーンパイプを買ってきて吸ってみると、なかなか具合がよろしい。灰を押さえるタンパーは、鉛筆のお尻に画鋲を刺して代用して、うん、いかにもぐうたら貧乏学生っぽくて調和的である。
十年ぐらい前には、キセルにも凝ったりした。その頃は紙巻きたばこをほとんど吸わず、キセルばかりだったんだけど、人前で吸っていると、一服するたびにいちいち「めずらしいですねえ」なんて会話になって、一服して休もうっちゅうのにかえって気疲れするんで、外で吸うのはやめてしまった。
パイプは、ちょっと一服というよりもゆっくり時間をかけて吸うんで、外で吸うことはほとんどない。それに、灰を落とさなくてもいい代わりに、キセルと同様、吸うのにちょっとした手間とコツがいるから、少しめんどくさい。それが道具を使った喫煙の楽しみといえば楽しみなんだけど、普段使いになるほどの「パイプ党」というわけでは全然ない。
普段は紙巻きを吸っているけれども、時々気が向くとパイプを吸っている程度のことで、今回もふと思い出して、キセルやらパイプやらたばこグッズが入っている手作り火鉢の引き出しから引っ張り出してきて、プカプカやっているわけである。最初のコーンパイプはデタラメな扱いですぐにだめになってしまって、今は、兄のヨーロッパ旅行のお土産と、同居人にナントカプレゼントでもらった二つを愛用している。
パイプは紙巻きよりも香りが豊かで、ちょっと高級品っぽい。葉っぱにお酒やバニラなんかで香りづけをしてあるタイプが多くて、ふわっと甘い匂いが広がる。でもぼくにはちょっと甘さがきつい。なるべくそういうのでないのがいいんだけど、たくさん銘柄があって、店に行っても何がなんやらようわからん。素直に店の人に聞けばいいんだろうけど、次に買いに来たときにアーダコーダと話が弾むのもめんどくさいんで、適当にエイヤッと買うと、まあ大概甘い。
ところがいまやネットの時代。調べてみると、パイプ好きの人たちが好き勝手に品評会をしてくれているし、こだわりのたばこ屋さんも味の簡単な紹介をしてくれている。すると、どうやら甘い香りづけをしてあるのはアメリカタイプだそうで、あまり香りづけをしてないのがイギリスタイプで、その中間がヨーロッパタイプなんだそうな。って、こんなことは前に読んだ本にも書いてあったっけかな。
というわけで、イギリスタイプのを買ってきた。その名もダンヒルのなんとかの945。そちらの世界では定番物らしい。
すぱーっ。ぷかーっ。
ふふーん、あるがね、あるがね、こういう素直なたばこの味。あと、ヨーロッパタイプのマック・バレンのヴァージニアNo1。これはヴァージニア葉のストレートな味わいが売りなんだとか。何がどうだとどうなのかよく知らないけど、これもぼく好みの味わい。いわゆる香りづけのやつならキャプテン・ブラックっちゅうのがよろしい。これはアメリカタイプなんだそうだが、葉っぱのしっとり感がいかにもパイプっぽくてよろしいじゃないですか。
キセルはほんの一服、ニ服という感じで、時間の区切りに実に具合がよろしい。一方、パイプは時間をかけて楽しむ。パイプのボウルがほんのりあったかくなるぐらいで吸っていると、一時間ぐらいは経っている。どっかのサイトにうまいこと書いてあったけど、「火を消してしまわない程度にゆっくりとふかす」のがコツ。すると、たばこ本来の香りが口の中に広がっておいしい。
火が消えないようにせかせか急いで吸うと、煙が辛くなるわ、舌を傷めるわで、これは大変によろしくない。火を消さないように吸うのが結構難しくて、何度も火をつけ直し、つけ直ししながら吸うのが、まあ普通でしょう。いつも一時間かけなければいけないこともないわけで、放っておいて立ち消えたものにまた火をつければいいだけのこと。それで特段味が落ちるわけでない。
ぼくはいまだに上手に吸いこなせていないけれど、こういうのを覚えていく過程全体が、いかにもおっとなーな感じでよろしい。これまたどこかの本に書いてあったけど、「パイプは小さな焚き火」。空気の流れを考えながら火をうまいこと操るのは、確かに焚き火とおんなじ。焚き火が上手な人って、大人だとぼく思います。
そういえば大学の時に哲学講読で、パイプをふかしながらマックス・シェーラーの講義をする先生がおったなあ。思い返せば、当時すでに教室内は「禁煙」だったはずだけど、とやかく言う野暮天はいなかったですなあ。あの先生もいまや大学から放逐されてしまったんだろうかなあ。だとするなら残念だなあ、とっても。

パイプたばこは高級品というイメージがあるけど、勘定してみるとそんなに高くない。たばこ葉一パック九百円ぐらいが標準的な値段で、ざっと紙巻きの三箱分(ダンヒルのナントカ945はちょっと高くて千三百円)。セブンスター(三百円)を一日二箱ぐらいのぼくが、もしパイプだけを吸うとして、一パックで多分三日ぐらいもつ。実際にはセブンスターを一日に一箱、パイプが一週間で一パックぐらいのペース。イメージと違って、パイプはかなりのお値打ちなのがわかっていただけたでしょうか。
最近はたばこが高くなってきて、ちょっとお小遣いがもったいないかなあ、なんて思うんなら、ちょっとパイプを吸ってみてはいかがでしょう。初期投資も数千円のパイプと数百円のタンパーぐらいのもの。コーンパイプならもっと安い。鉛筆のお尻に画鋲を刺せばさらに安い(が、貧乏くさい)。
パイプたばこには紙巻きよりもいろんな味があって、いつもと違った時間を楽しめる。しかもお値打ち。ほっておく手はない。普段紙巻きはやらなくても、パイプを時々吸うという人もいるみたい。たばこを吸っても怒られない大人にせっかくなったんなら、ちょっと手を伸ばして、パイプをたしなんでみるのもよろしいんじゃないでしょうか。